卵巣過刺激症候群(OHSS)
ART(生殖補助技術)の合併症です。
最も厄介で危険な合併症はOHSS(卵巣過剰刺激症候群)です。血液の濃縮が起こり、血栓症などを引き起こす場合や胸水まで溜まるような最重症例では長期の入院加療が必要となるそうです。
自然排卵周期では卵巣に1個(時に2個)の卵胞ができますが、排卵誘発剤(主にはhMG注射)を連日投与する「刺激周期」では、複数の卵胞形成が見られます。
卵胞が
10個以上発育する方は、OHSS発症の可能性があります。
20個以上できる様な過剰反応の方は、従来の卵巣刺激法ではOHSSのリスクがかなり高くなります
普段は親指大くらいの大きさの卵巣ですが、20mmもの卵胞がいくつも発育すると7〜13cmぐらいにまで腫れあがります。
hMG製剤などで卵胞を刺激し発育させたあと、hCG注射により排卵を誘発すると、卵巣が腫れて腹水がたまる(最初は卵巣の周囲のみですが、ひどくなるとお腹全体に広がる)ことがあります。
■たくさん育ちすぎてしまう可能性のある方
1、 多嚢胞性卵巣(PCOS)症をもっている方
(男性ホルモンが過剰に分泌)
2、35才以下・やせがた・ネックレスサインがある方
3、血中エストロゲン値が4000pb/ml以上の症例
4、多数の卵胞発育症例
(20個以上で卵胞ホルモンが3000pg/ml以上の方)
5、黄体機能補充としてのHCG投与症例
6、GnRHアゴニスト使用症例
7、妊娠成立症例(重症化することが多い)
「卵巣過刺激症候群(OHSS)」が出る,または出やすいと言えます。
■症状の程度
薬剤の種類と投与量、そして受ける人の体質(たとえば多嚢胞性卵巣症候群)、薬剤への感受性によって異なります。
■症状の初期
採卵後から出現し一週間頃にピークを迎えますが、月経前になるとすみやかに改善してきます。しかし妊娠が成立した場合には、妊卵から分泌されるhCGにより黄体が刺激を受けてホルモンの分泌が続くため、症状は長引きます。
OHSSは排卵誘発剤を使用する人のおよそ5%にみられる症状ですが、大部分は軽症のため、「日にち薬」で改善してゆきます。身体を動かした時などに腹部に引きつる感覚やチクチクした痛みを感じたり、普段はいているスカートがきつく感じられたり、眠気、軽い胃痛、頭がフワフワする、茶オリ、乳首痛する時は、症状の初期と言えます。
■卵巣腫大の程度や症状
★軽 症
卵巣が大きく腫れて、子宮のうしろのダグラスかというところにわずかに腹水がたまる状態です。卵巣が大きくなるにしたがって、重苦しい感じ、下腹部不快感、痛みなどを起こします。
体外受精では大量のHMGを用いますので、ほぼ全例がこの軽症の状態になります。基本的に安静と痛み止めのみで経過をみますが、そう大きな問題とはなりません。
→体重増加 ・ 腹部不快感 ・ 下腹部膨隆感 ・ エコーにて少量の腹水貯留。
★中等症
さらに卵巣が腫大し、腹水がへその下まで認められるようになります。
ただちに入院の必要はありませんが腹部不快感、膨満感はよりひどくなり、体重がふえます。妊娠しなければ一週間以内に軽快します。
→腹部不快感 ・ 下腹部膨隆感 ・ 悪心 ・ 嘔吐 ・ 呼吸困難。
★重 症 ★危機的
腹水がへその上の上腹部に達すると、重症となり入院が必要です。
胸水がたまって呼吸障害が出てくると、危機的となり、集中管理が必要になります。身体の全体としては水分過剰ですが、血管内は血液が濃縮するため血栓症を起こしやすくなります。このようになる場合はほとんどが妊娠例であり、人工妊娠中絶が必要になることもあります。
→頻脈 ・ 血圧低下 ・ 胸水貯留 ・ 乏尿 ・ 肝機能低下 ・ 腎機能低下。
☆治療
OHSSの治療としてはその重症度に応じて水分制限(賛否両論があります)、大量のアルブミン(血液中のタンパク)の補給、ドーパミン療法(腎臓の血流量を上げ、尿が出るようにする)、抗凝固療法(血栓の予防)、腹水を抜いて濾過して濃縮し血管内に戻す方法、などがあります。
■なぜ?
血管内から水分が漏出することが原因で起こる現象で、この結果血圧の低下を招いたり血液凝固能が亢進し、血管内で血栓を起こしやすくなることで脳梗塞や心筋梗塞、肺梗塞などの生死に関わる大事に至る可能性も出てきます。
また、卵巣の腫大自体は茎捻転を招くこともあり、開腹手術を必要とする場合もあります。
卵巣が大きく腫れて強い痛みが出現する場合、中等量以上の腹水がたまる場合、尿量が減少してくる重症例(0.5%)では注意が必要です。
このようなケースでは血液の濃縮が起こり、血栓症などを引き起こすことがあります。胸水までたまるような最重症例では長期の入院加療が必要となります。
■治療方法
治療の基本は、入院による安静・点滴となります。血漿量減少に対しての輸液を確保しながら、血圧低下に対して昇圧剤を投与したり低タンパク血症に対してアルブミンを投与したりという治療を行います。
通常はこの治療により、hCG注射後約1週間後頃をピークとして軽快に向かいますが、
●妊娠が成立した場合には、
着床後から妊娠組織部分からhCGが分泌され始めますので、
妊娠初期の間は完全には症状が軽減じないため、
ケースによっては妊娠初期の間ずっと入院治療が必要となることもあります。
しかし、
妊娠4ヶ月に入って胎盤が形成されてくると必ず軽快します
どれだけ長くても3ヶ月以内には退院できるものと思って良いでしょう。
●妊娠しなかった場合には、
ピーク(HCG注射後約1週間後頃)を過ぎると急速に症状が消退していきます。
次の排卵への影響を心配することはありません。
OHSSは適切な治療を施しさえすれば決して怖いものではありませんが、
病院へ行かずに放っておくと血栓症や血圧低下によるショックなどで
命を落とす危険性のある疾患です
■重症化を防ぐために
OHSSの発症、並びに重症化が懸念される場合には、
受精卵を凍結し、OHSSのリスクがなくなった時期に凍結胚移植を行います。
1、全胚凍結
2、コースティング
卵胞数が多く、卵胞ホルモンが非常に高い場合、
hMG誘発剤を3〜4日間中止しホルモン値を下げます。
3、hCGの中止
発育卵胞数が40〜50個以上の場合、
hCGを投与しない。
採卵キャンセル・中止!
●採卵症例
OHSS予防のための全胚凍結は、年5〜7%
コースティングやhCGの中止は、年0.1%程度だそうです。
■こんな症状が出たら!!
hCG注射後からお腹が妙に張る,痛い、
トイレへ行く回数が激減した、
肌が異常に乾燥してきた、
呼吸が苦しい、
胸が苦しい
・・・などの症状が出現してきたら
すぐに病院へ行くようにして下さい。
決してガマンなどはしてはいけません。