胚凍結保存と胚移植(ET)

ART(高度治療)で行われている重要な技術、胚の凍結について解説します。
■胚を凍結保存するということ…
IVF-ET(体外受精胚移植)の際に複数個の受精卵が発生したとき、良好胚をえらんで移植しても胚が余るときがあります。そのような場合に胚を凍結して分裂を停止させ長期保存する技術があります。これを胚の凍結保存といい、現代のART(高度治療)には欠かせない技術です。凍結していた胚は解凍して移植を行うことができます(凍結融解胚移植)。

保存技術が進歩して液体窒素(マイナス196度)の中で、理論的にほぼ半永久的に保存を行うことができるようになりました。
一人目のお子さんが生まれてしばらくして、一人目のお子さんが妊娠する前に保存していた胚を移植し妊娠することも可能となりますね。その場合、兄弟で年齢は違いますが、受精したのは同じ日という不思議なことが起きます。
生きた細胞である胚を凍結保存して、分割を停止させ(胚の時間を止めることになります)、一定の期間保存し、今度は解凍して分割を再開させ、着床、妊娠継続に持っていくことは非常に大変なことなんです。

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アイスコーヒーなどに入れる氷を作ることを考えてみてください。
製氷用のプラスチックの容器に水をいれ、冷凍庫にいれます。
数時間すると氷ができますが、その氷をみると容器から氷の表面が盛り上がって体積が増えていたり、割れて亀裂が入っていたりしますよね。
胚を含んだ培養液をそのまま凍結させても、胚の中の水分が結晶化して胚が内部から破壊されたり、浸透圧の関係で胚が膨張したり、縮小したり、培養液に亀裂が入り たまたまその亀裂に胚が存在すると胚が外部から破壊されたりしてしまいます。

日本で年間約4万件の新鮮胚を用いた体外受精胚移植IVF-ET)が行われていますが、凍結融解胚移植は3万件を越えており、新鮮胚に追いつこうかという勢いです。凍結融解胚移植による出生児も年間5000人を越えています(新鮮胚では年間6000人以上です)。


■どんなときに胚を凍結保存するのか?
移植後に胚が余った場合がまずあげられます(余剰胚の保存)。
いくら沢山の受精卵ができても、一度に移植できる数は多くて1個(45歳以下)ですので、余った胚は原則、凍結保存することができます。何らかの理由で新鮮胚の移植が中止となった場合にも保存されます。

たとえば採卵数が多くなり、移植を行うことで卵巣過刺激症候群(OHSS)の発生が予想されるときや子宮内膜の厚さが十分ではなく、移植時期が適切だと判断されなかった場合です。そのようなときは全胚凍結保存が行われます。

また前核期胚、初期胚、胚盤胞のどの段階でも凍結保存が可能です。良好な胚を凍結保存しておくことで卵巣過刺激症候群(OHSS)による母体合併症の抑制や卵巣刺激や採卵による身体的、経済的負担を軽減させることができます。


■凍結保存期間は?
基本的には半永久的に保存することができます。理論的には数百年でも可能といいます。しかし、いつまで保存するかは最初に、きちっとした文書を作成して取り決めをしておかないといろいろな問題が出てきます。保存途中で夫婦のどちらかが死亡した場合、残った胚をどのようにするのかなどは非常にデリケートな問題ですね。また、長期保存をすることで保存する胚の数がどんどん増えて、施設内で保存するスペースもなくなってきます。
私の通う病院では2年で保存更新手続きをするそうです。ちなみに凍結保存費用は、初回2年分52,500円(凍結手技料金を含む)、その後保存を更新する場合は年額21,000円を前払いします。


■凍結保存の方法
胚凍結の際にもっとも問題となるのは氷の結晶ができることです。
細胞をそのまま冷凍すると氷の結晶が細胞内部に発生し細胞が破壊されてしまいます。いかに結晶を作らないように凍結するかが重要!

現在 凍結の方法としては2種類あります。従来から行われている緩慢凍結法(slow cooling法)とガラス化凍結法(vitrification:ヴィトリフィケーション)です。

緩慢法はゆっくりと冷凍して細胞のダメージを少なくしようという方法です。
高価なコンピューター制御のフリーザーを使用し、長時間かけて凍結するという手間と費用がかかりますが、機械の操作などが決まっていますので保存に差ができずに安定した成績を得ることが可能となります。しかし、氷の結晶を完全には抑制できない可能性があります。

一方ガラス化法は高価なフリーザーを必要とせず、簡短時間で胚を凍結することができますが、ガラス化を行う際に素早くきちっとした処理が必要となり、より厳密性が要求されます。しかし適切にガラス化が行えれば、氷の結晶をほぼ完全に抑制でき保存性が高くなるといわれています。



■凍結融解胚移植の方法
胚は凍結するときと融解するときに、ダメージを受ける可能性があります。
そのためすべての凍結胚が良好な状態で移植を行えるかというとそうではありません。融解しても元の状態にもどらない胚もでてきます。

融解後にしばらく培養を行い、胚の状態を確認して移植を行います。どの段階の胚を凍結したかで融解後の培養期間も違いがでてきます。初期胚の場合は融解後、時間をおかずに初期胚の段階で移植することもありますし、胚盤胞まで発生することを確認して移植することもあります。

着床、妊娠継続のためには、子宮の内膜の状態やホルモンの状態が重要なので、いつ移植してもよいというわけではありません。移植する胚の発生状態に子宮の環境を同調させて移植のプランを立てます。
 自然周期で胚移植を行うときは、経膣超音波で卵胞の測定を行い、排卵が近いと判断したらhCGの投与で排卵推定時刻を予想し、同調させて胚移植を行います。移植する際に薬剤を使用せず自然排卵周期にあわせて移植する方法です。

 ホルモン剤補充での胚移植と、凍結胚移植のためのホルモン補充周期も同様に、自分で次の卵胞を育て排卵させる力をゼロの状態にしておいて、卵胞ホルモン(貼り薬又は内服薬)で子宮内膜を作ります。そうすると、排卵に左右されずに理想的な内膜の厚さになるまで続けられるでしょう。ホルモン補充周期の最大のメリットはここです。そして、移植前後からは卵胞ホルモン剤に黄体ホルモン剤をプラス(注射)します。
採卵周期には誘発剤を沢山使うので卵胞ホルモンの分泌も非常に多くなりますから、卵胞ホルモン剤を足さなくても普通は内膜も厚くなります。



凍結胚移植をする時に、自然排卵周期とホルモン補充周期のどちらで行くのがいいかは一概には言えませんが、排卵のタイミングが掴みやすく内膜が自然に厚くなる人は自然排卵周期の方が身体も楽ですし向いていると思いますが、今回のように上手くいかないと難しいですね。



■凍結による影響

胚凍結による先天性異常の割合は新鮮胚の場合と変わらないと報告されています。
凍結に使用される耐凍剤や凍結保存により胚の周囲に存在する透明体が硬くなるといわれています。(透明体の硬化)そのため、妊娠率向上のため、assisted hatching(AHA)が併用されることもあります。


■卵の段階で凍結できるのか?
現在の技術では受精していない卵子をそのまま保存しても、胚の保存ほどの妊娠率は得られていません。


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胚の凍結保存◇特殊技術料◇